Title: The role of microbes and viruses in oceanic carbon and nitrogen cycling
Abstract:溶存有機物を起点として細菌から原生生物やウィルスへとつながる微生物食物連鎖(微生物ループ)は,海洋の炭素・窒素循環の駆動システムとして重要な役割を果たしている。しかし,中・深層における微生物ループの変動や制御機構については未解明の点が多く,海洋生物地球化学モデルへの微生物過程の組み込みは依然として初歩的な段階にある。筆者は,1990年代に,深層における細菌の地理的分布に着目した研究を行い,粒子の沈...溶存有機物を起点として細菌から原生生物やウィルスへとつながる微生物食物連鎖(微生物ループ)は,海洋の炭素・窒素循環の駆動システムとして重要な役割を果たしている。しかし,中・深層における微生物ループの変動や制御機構については未解明の点が多く,海洋生物地球化学モデルへの微生物過程の組み込みは依然として初歩的な段階にある。筆者は,1990年代に,深層における細菌の地理的分布に着目した研究を行い,粒子の沈降フラックスと,深層の細菌生産が共役していることを見出した。その後,この研究は,南北太平洋と南大洋を含む広域的な南北断面観測や,外洋域の定点での時系列観測へと発展した。その結果,表層からの炭素輸送と中・深層の細菌生産の応答の間に,時間的なずれが生ずる場合があることや,中・深層の微生物プロセスが従来考えられていた以上にダイナミックであることなどが明らかになってきた。本稿では,海洋の中・深層における微生物ループ研究の歴史的な流れを概説するとともに,ウィルスや細菌が関与する炭素循環制御システムの実験的な解析についてのいくつかの研究事例を紹介する。また,今後の課題として,表層から中・深層への炭素鉛直輸送の主要媒体である,凝集体(マリンスノー)の形成と崩壊に関わるメカニズムを解明することの重要性を指摘する。Read More